野良犬

野良犬<普及版> [DVD]

野良犬<普及版> [DVD]

黒澤明がマルチ・カム方式と望遠レンズを導入して挑んだ本格サスペンス。拳銃を奪われた刑事と、その拳銃で殺人を犯し続ける犯罪者。刑事と犯人という立場の違うふたりの復員兵が真っ向から対決する。リアリズムに徹した演出が結実した名作刑事ドラマ。

先日テレビ朝日で放映されたリメイクドラマ版が酷いシロモノだったので本家黒澤明版を再鑑賞。いやー口直しぐらいのつもりだったのにいろいろ再発見があって面白かったわ!前半は地味な捜査を描いているのにまったく退屈しませんなあ。なんでかな?と考えてみたら捜査の過程で出てくる人々がちょい役まで好演していて華があるんですよ。すべての登場人物に面白味と生命力を感じる。この作品、芯のミステリー・サスペンスの部分が骨太で素晴らしいのはもちろんですがその上に乗っかってるユーモアの質が高い。特に志村喬演ずるベテラン刑事の台詞回しの粋なこと!ここは今回見て初めて気が付きました。あと犯人像に今でも通じる現代性があるのも凄いですね。戦後という時代背景を丹念すぎるほど描きながらも時代性に頼ったり媚びたりしていないということじゃないでしょうか。自分が世の中に踏みつけられたから他人を踏み潰してしまえ!というような悪っていつの時代にも存在しうると思いますから。そういうところにちゃんと焦点が合わさってなおかつはっきりしたメッセージが発せられるなら今の時代を生きていても心に響きますよ、そりゃあ。後半の天候を巧みに使った強烈なサスペンスは見事だし終盤の畳み込みも惚れ惚れします。音楽の使い方も本当に良いよなあ。わざわざ舞台を現在に置き換えて下手なリメイクせんでもオリジナルが十分現役の内容ですね。あらためて傑作だと感心しました。